W.年少者及び帰国子女のための日本語教育に関する研究

1 太田垣明子(1994)「在日外国人学校の日本語教育」日本語学13-3 
明治書院pp.6976


一.インターナショナルスクールの日本語教育の現状について

 本稿では、日本在日外国人学校協議会(JCIS)に所属している国内のいわゆる「インターナショナルスクール」の日本語教育の現状と課題について、いくつかの側面から述べる。

(一)日本語プロジェクトの発足:1992年国内のインターナショナルスクールにおける日本語教育の充実を図る意味で、「日本語プロジェクト」が2年計画で始まった。このプロジェクトは、出版と企画の二つの部門からなる。出版部門は、教師の「情報交換の場」を提供しており、企画部門は、教師の「自己啓発の場」を提供している。

(二)カリキュラムの一貫としての日本語:近年、インターナショナルスクールの中で、「統合されたカリキュラム」が注目されている。これは、各教科を別々に独立して学ぶのではなく、有機的に結びつけようとする試みである。個々の学習活動と言語とは、常に一体であるという考え方であり、言語の4技能だけでなく、「考える力」や「学ぶ力」も言語教育の中で、重視され、全人的な教育がなされるべきであろう。

(三)主要外国語としての日本語:日本語はもはや東洋の一つの国の言語という以上の立場を占めつつあり、アメリカやオーストラリアでは中等教育における主要な外国語として採択されている。

(四)様々な学習者:@ほとんどの学校で、幼稚園または小学校の低学年から日本語のクラスが始められている。A学習者は、出生時または幼少時から長期にわたり日本に暮らしている「定住者型」と親の仕事の都合で短期間のみ日本に滞在する「短期滞在者型」と、海外から帰国した日本人の「帰国生徒型」の三つのタイプに大まかに分けられる。このため、同じ年齢層の中に、様々なレベルの生徒が混在している。B「母語話者としての日本語学習者」がかなり多い。

二.帰国子女教育との接点

(一)「考える力」と「学ぶ力」:知識とは、「教師から学ぶもの」であると同時に「自分で得るもの」という意識が強いのであろう。「考える力」と「学ぶ力」を養うために、長期的な展望のもとに立って、四技能を統合させた新しい教室活動が、考えられるべきである。

(二)「開かれた日本語」:アメリカやカナダのような移民を多く受け入れている国では、自国の言葉を学んでもらおうという姿勢が確立されており、教授法や研究が進んでいる。日本語教育に関して言うと、これからと言えよう。また、国語教育との関わり方も、これからさらに検討されるべきことであろう。より開かれた日本語と日本語教育が今後望まれる。

2 小野博(1994)「帰国子女のバイリンガル能力の保持」日本語学13-3 
明治書院 pp.3845

1.はじめに

 「帰国子女のバイリンガル能力の保持」という題の中には多くの問題が含まれている。第一にバイリンガルの定義である。本稿では両言語とも年齢レベルにある場合をバイリンガルと呼ぶ。第二の問題は、実際の言語力の問題である。バイリンガルは海外在住子女に非常に少ないと言える。第三の問題は帰国後のバイリンガルの保持の問題である。

2.日本人児童・生徒の海外での外国語の習得

1)調査の方法:日本語語彙力の検査はコンピュータを用いた適応型方式によった。また、英語語彙力調査は、@小学校三年から大学生レベルまでの日常生活語による選択肢方式によった。Aヒアリングによる英語語彙検査として、四つの絵の中から音声によって提示された単語に最も適当と思う絵を選ぶテストを用いた。

2)調査の結果:児童・生徒87名について調査を実施した結果、小学校12年生までの出国の場合、海外での学習は良好と言える。一方、小学校3年〜4年生以降に出国した場合、学年相当のレベルになることは、短期間では困難であることが分かった。

3.帰国児童・生徒の日本での英語語彙力の消失と日本語の獲得

 63名の帰国子女を対象に調査を行った結果、英語語彙力は海外での滞在年数、帰国時の年齢や帰国直後の英語語彙力にあまり関係なく、急激に低下する児童・生徒が多いことが分かった。さらに、同時に調査した日本語語彙力は小学生の場合、海外での滞在年数、帰国時の年齢および帰国時の日本語語彙力にあまり関係なく、努力を行えば急激に伸びる場合が多いことが分かった。

4.海外生活の経験のある大学生の日本語・英語語彙力とバイリンガル

1)調査の方法:日本語・英語語彙力調査は、今まで行ってきた方法と同じである。調査はさらにアンケートにより、出国・渡航年月、滞在期間、現地での就学状況やその際の学習言語、日本の大学への入学方法などについても詳しく調べた。

2)調査の結果:両言語の語彙力検査結果で最も特徴的なことは大学学部の試験をクリアして入学した学生は、日本語と英語の双方、またはそのどちらかの語彙力が高校生レベル以上に達していることがわかった。しかし、書類選考のみで入学させる学部学生の場合、日本語・英語語彙力共中学生レベルの学生が少なからずいたことが明らかになった。

 今まで述べてきたように日本人児童・生徒が海外で生活し、英語を学習言語としてしながら家庭や週一日の補習授業校における授業中だけの日本語学習で日本語と英語のバイリンガルになるのはかなり困難であることが分かった。その原因の第一としては言語間の距離が遠いこと、海外において学習言語を英語に変更する時期を言語習得に関する年齢の影響を考慮せずに行うことが考えられる。

3 野元菊雄(1994)「異文化理解としての日本語教育」日本語学13-3 
明治書院 pp.2128

・第二言語教育

 異文化理解のために第二言語教育をするのではなく、第二言語教育そのものが異文化理解教育である。

・帰国子女の定義

 「帰国子女」というときは、帰国する親などに伴われて日本に初めて入国する子女をも含めて言うのが普通であり、一般には「留学」生が帰国しても「帰国子女」には入らない。

・帰国子女の母語は?

「帰国子女」の母語は日本語であるべきだ、と思われていたのはどうやら昔のことであるようだ。滞在が永くなると子女の日本語は、現地校に通学させる限りは怪しくなる。

・帰国子女と日本語教育

  ただ漫然と現地校に通わせていただけだと、子供の日本語はだんだん悪くなっていく。特に書き言葉では日本の同年齢の子どもとの差が大きくなる。東南アジアの日本人学校には少なからぬ比率で母語を日本語としない児童・生徒が増えているようである。こうして、国語教育ではなく日本語教育の対象になる児童・生徒たちは増えていると考えられる。

・帰国子女と日本文化理解

 帰国子女の場合は、ずっと日本で日本人として生活するならば、できれば第一言語にすることが望ましいので、日本文化が異文化であっては困る。

・文化理解と通訳

 使っている言語によって考え方が変わることは自然であると思っている。しかし、私は本当の二言語使用者は、この自然さを突き破る能力がなければならないと思っている。例えば、英語ができるはずの外務その他の官僚や英語が得意な政治家が英語だけで交渉するときは、その話の流れは英語的になるから極めて危険だ、ということになるだろう。

・到達すべき日本語能力

 まずは、話している言語の考え方を正確に話している言語に反映するところから出発すべきである。日本語を話している限りは正しい理解には察しを使わなければならない。

・適応と批判

 異文化を理解するためにはその異文化を認めるところから出発しなければいけない。批判という不遜なことをしながら、その文化の神髄を理解できるはずがないからである。

・真の異文化理解

 異文化理解としての日本語教育でも、プラス・マイナスそれぞれをそのまま理解してもらうことから出発すべきである。そういうものを含めた日本語能力を獲得したあと、それをそれおれの第一言語の国でうけいれるかどうかは別の問題だろう。受け入れないことをまず決められたのでは駄目だろうというのが私の意見である。


4 佐藤郡衛(1997)「学校教育と日本語教育(1)帰国子女教育との連携」
日本語学 165 明治書院 pp.6570

1.目的:今後の学校教育における日本語教育を構想する上で、帰国子女教育から何を学べるかを検討していく。

2.帰国子女教育における研究成果

1980年代前半までの研究の多くは、日本の子どもと比較し、語彙の習得の問題点を明らかにしてきた。こうした研究成果を踏まえ、帰国子女の日本語教育は語彙力を増やすことが目指された。1980年代後半以降の研究は、言語学、心理言語学、発達心理学などをベースにしたものが多く、理論的な背景を持って研究が展開されるようになり、しかも国語教育から日本語教育へとその焦点を移行してきた。

3.日本語の指導体制

 帰国子女教育の実践の成果として、まず日本語の指導体制の整備を指摘できる。専門的な施設として「波多野ファミリー・スクール」が独自の指導法で、帰国子女の言語的な問題に対応している。国レベルでの制度に@「帰国子女教育学級」、A「帰国子女教育研究協力校」、B帰国子女受け入れ推進地域の指定とセンター校の設置が挙げられる。また指導体制に応じた指導法も工夫されている。

4.日本語指導のカリキュラム

 東京学芸大学付属大泉小学校は、優れた日本語指導の4段階のカリキュラムを整備している。生活に根ざした日本語指導から入り、教科学習の移行期として総合学習を行っている点が特徴であり、年少者の日本語教育のカリキュラムの開発に参考になる。

5.教材の開発

 帰国子女の実態に即し、独自の教材の開発が求められており、「取り出し」による指導が一般的に行われている

6.国際理解教育という視点からの日本語教育

 帰国子女が生活していた国の文化・社会・自然などについての学習を通して、日本語学習も行おうとする試みが多くなっている。

7.指導者

 学校全体で帰国子女教育に取り組むときに帰国子女専任の教師と担任教師との連携が必ずしもうまくいっていないのが現状であるため、ボランティアの活用も含めた日本語教育の指導者の養成と効果的配置が望まれる。 

8.子どものアイデンティティの確立

 中国帰国子女は、それまで育った文化を否定的にとらえ、否定的な自己概念にまで結びつき、アイデンティティを確立できずにいる現況である。よって、子どもたちのアイデンティティを保障する必要があり、このことが実は母語教育の必要性へと結びついていく。

5 日本語教育学会(2000)「講演とシンポジウム「年少者の日本語教育を考える」
概要報告 日本語教育105 日本語教育学会pp.121171

(講演)ドイツ連邦ベルリン州における外国人子弟へのドイツ語教育の現状と課題
    ドイツ連邦ベルリン州教育長 ヴィルフリード・ザイリング

 ベルリンには426,000人の外国人が住んでおり、それらの外国人は184の国から来ています。特に多いのがトルコからで、その数は138,000人となっています。このような状況からベルリンの学校は全生徒の17.2%を占める68,200人の外国人の生徒を受け入れています。

T.ベルリン州教育条例の基本方針は、「すべての人間は同等であり、その価値観、文化的背景は尊重されなければならない」ことを前提としています。

 その結果、移住してきた子供達は、国際文化的グローバル社会における教育にさらなる発展の機会をも与えられます。
 20年以上もの間、行政は外国人児童生徒に対して独特な促進奨励プログラムを実施してきましたが、ドイツ語が母国語ではない生徒は、それぞれの語学能力に応じて、以下のように判断されます。

A)ドイツ語を習得している生徒
B)ドイツ語はかなりまだ問題があるものの、授業にはついていける生徒
C)ドイツ語がまったくできない、あるいは不十分であるために授業についていけない生徒
D)ドイツ国籍を有しておらず、最近移住してきたばかりで、年齢が14歳〜16歳であり、ドイツ語の知識がなく、また学歴として、卒業証明書の最低ライン(ハウプトシューレ卒業試験)を2年以内にクリアする必要がない生徒

U.ドイツ語が母国語ではない生徒が通常のクラスで授業を受けて、そのドイツ語力が全くない、あるいは不十分であるために授業についていけない場合(グループC)、この生徒はドイツ語補習コースで集中的に語学の授業を受けることになります。
 このコースでは、ドイツ語力がまちまちの12名の生徒が1グループを形成して、最低でも4日間8時間の授業を受けます。
 ドイツ語が母国語でない生徒が、通常のクラスで授業を受けて、そのドイツ語力にはかなりまだ問題があるものの、授業にはついていける場合(グループB)、その生徒は追加的な促進授業を受けることになります。10名の生徒が、それぞれ1グループを形成し、5時間の授業を受けます。
 グループDの生徒の場合、表3の統合教育課程の時間割に沿って勉強します。

V. 学校教育は、生きる上で社会的及び経済的な機会を提供します。そのため、学校卒業試験合格証明書は大切な社会的指標になってきます。

 学校卒業試験と、ドイツ入国時の生徒の年齢には、密接なつながりがあります。

入国時の年齢が上がれば上がるほど、ドイツの学校卒業試験に合格する可能性は低くなります。

中等教育終了あるいは大学入学資格の試験に合格する最も高い可能性としては、就学以前、つまり6才までにドイツに来た場合です。逆に、合格する可能性が特に低いのは、高学年前期(日本の中学に相当)の年齢で入国してきた生徒です。

さらに、興味深いのは、ある程度の年齢になってから入国してきて、ドイツで一般学校に通った生徒のうち、約10%がそれでもアビトゥアに合格している点です。この数字はドイツで生まれ育った生徒のアビトゥア合格率とも一致しています。

第一言語の語学力が第二言語の最大に上達しうるレベルを決定付けていること、そしてこのことが学校における好成績にかなり影響を与えている、という事実が確認されます。

W. 教育に関して常に何らかの行動を強いられる、直接的に現在にまで及ぶ最大の問題点はゲットー化、つまり外国人が固まって居住していることにあります。外国人とドイツ人の子どもたちは、基本的には同じ学校に通うことになっています。しかし、特定の区域に外国人の子どもたちが集中していることが、ドイツ語を習得する環境を悪化させていることは否めません。

 外国人3世代目になると、子どもたちがドイツ語を覚えるということに親の感心が薄れてしまっていることが見て取れます。たいていの場合、母親は大人になってから入国してきており、母親自身、ドイツ語が話せません。周りの住居環境が、ドイツ語を覚え、話す必要性はもはやなくなってくるのです。

 行政はこのため毎年1,930DMを追加的な促進授業のために使えるようにしています。また、通常予算には、毎年6,850DMを見ており、約1,000の教師のポストを用意しています。

 不十分な語学能力は、学校での適応、社会における適応、そしてまた職場での適応においても支障を来たしています。

 ドイツ語を習得する、あるいはうまく適応できない、といった原因で考えられるのは、@学力に非常に問題がある生徒の場合、A家族の中で、トルコ語だけしか話せない場合、B外国人子弟が14歳、あるいはそれ以上の年齢に達してからドイツに入国してきた場合、C不良グループ化してしまった場合、D外国人子弟の意思に反してドイツに来た場合、E短期間しかドイツにいない場合、F家族が、子どもがドイツ語を覚えることに対して関心を持っていない場合、G外国人生徒が母国語もきちんと習得していない場合、適応が難しくなります。

外国人子女教育実践報告

<実践報告1

広島市立温品小学校非常勤講師 須藤 とみゑ

 

子どもたちへの日本語指導にかかわるようになった時から今まで三つの分からないことを抱えたまま、手探り状態でやっております。

 その三つの一つ目は子供の指導法が分からない、二つ目は子どもたちの母語が分からない、つまり子どもたちの考えていることや言っていることが分からない、3番目が学校行政、あるいは学校内の組織が全く分かりませんでした。

 年少者の指導法については、各機関や地方自治体などで、すばらしい出版物ができていても、現場にいる者はなかなか入手することができません。もっと地域で作られたものを簡単に入手できるような何か手立てができたらいいなと思います。

 2番目は、一クラスの中にいろいろな国の子どもたちがいると、その子どもたちの母語を全部マスターすることはどうしてもできませんので、最初のうちは日本語で指導するというところから始め、不自由ながら2,3ヶ月もすれば子どもたちの方が日本語を覚えてきますし、それよりもむしろ日本語によるカウンセラー的な要素というのが大事じゃないかなと思って、4年前にカウンセラー養成講座を2年間受講しました。それは子どもたちと向き合ったときに非常に役に立っています。

 3番目の学校行政の中での自分についてですが、私にとって本当に大きな問題でした。この3番目のことに焦点を当てて話したいと思います。

 一人及び少人数校は全国で80%に及んでいるが、その地域では日本語指導体制の整備が遅れていたり、こういった行政の意識レベルが低いといった問題が出ています。

 日本語指導に直接携わっている私たちが行動できることは何かということで、二つのことを考えました。一つは小学校の現場の実態と日本語教師の必要性について、学校行政側に伝えることにしました。県の教育委員長からお電話をいただきまして、具体的な動きやどういうふうに動いたらいいかという助言をいただきました。

 それから第二点目で、日本語教育をもっと小学校の中に入れていかなければならないのではないかということを考えました。一番大切なのは新学級というか、子どもたちがいる学級活動の中で、あるいは学級の子どもたちとのかかわりの中で、どんどん日本語を覚えていくことです。理想としては、小学校の先生が日本語教師養成講座とか大学院などへ行って日本語教育を学んでほしい、日本語教育を学んだ小学校の先生が子どもたちの日本語教師としての理想像だ、と思っています。

<実践報告2

外国籍児童の保護者 藤川 千草

 私は、ちょうど10年前に武蔵野市に設立されました国際交流協会で当初から外国人の生活相談の担当をしてきました。

 3年前ぐらいから外国人の保護者会というものを開いて、親たちに対しても日本での生活に溶けこみやすい状態を作るよう図り、子供の学校になるべくかかわりやすくするよう勤めています。

 外国人の保護者というのは、学校で開かれる保護者会に行っても、日本語がなかなか分からないためにぽかんとしていることも多いです。日本の学校では膨大なプリントが配られますので、その説明を聞くだけでも大変ですし、たった一枚のそういった身近な連絡文でさえも誰かの手助けを借りなければならないということがありますので、外国人の保護者に対するケアもこの相談室で行なっています。

 1つの例ですが、一昨年から昨年にわたって、ある一家のお手伝いをしました。そこのお母さんと学校との日常の連絡がうまくいかないことが多くて、大変でした。日本の学校の文化や日本の祭日の意味などを理解してもらえないことが多かったのです。

 年間のスケジュールを翻訳して、休日を色で区別し、黒丸がついているのはナショナルホリデーとか、振替休日とか、その他の学校だけの休日、創立記念日は別のシールを貼って、学校に行く日かどうかを必ず確認するお手伝いをやってきたのですが、このように言葉に裏付けられる文化の違いの中で外国人の子どもと保護者が非常に苦労している現状があります。

 日本語が上手になって、お話ができるようになった保護者の方たちは、自分の国や文化について日本の人に話したいという積極的な考えを持つ方がおります。そういう方のためには私の子供の学校では、6年生のための「世界を知ろう」というクラスに出ていただいて、国際理解を深めるために一役かっていただいています。

 武蔵野市はローカルでFM放送局がございまして、毎週土曜日の午後6時〜630分の間に外国人の方に出てもらって自分の国の文化を紹介したり、音楽を紹介したりしてもらう時間がありますが、その番組に出ていただいてなるべく自分の国も日本にしてもらう、そしてできれば日本語で話してもらう、そういうことによって、だんだん保護者の方の顔が明るくなって日本に少しずつ慣れてきていただくと、子供の日本語の勉強に非常に役に立つのではないかと思うんですね。

<実践報告3

東京都渋谷区神南小学校教諭 矢崎 満夫

 

 私は渋谷区の神南小学校で日本語国際学級という学級を担当しております。そこで「通級指導学級」と言いまして、神南小学校だけでなく、渋谷区内小学校の日本語指導を必要とする子どもたちすべてを受け入れる学級を担当しています。

 現時点では、様々なバックグラウンドを持つ14名ほどの子どもが国際学級に来ております。そうした子どもたちに対して教育する時に考えなければいけないと思っていることは、「誰に対する何のための教育か」ということです。子どもたちにはいろいろな背景があるということで、それぞれ分けて考えなければいけないと思うのです。例えば、一時滞在のケースの子どもと、定住のケースの子どもが混在していることだけをとってみても、子どもたちの日本語教育というのは決して一括りにすることは出来ないのではないかと考えております。特に後者にとって大きな問題となってくるのが、教科指導だと思うのです。

 私は四つの提言を挙げてみたいと思います。

 まずは行政の方々に向けてなんですけれども、これには三つあります。

 一つ目は日本語指導者の派遣システムをぜひ確立していただけないかということです。

 二つ目は大学での教員養成についてです。日本語の教え方というものを必ず教員養成のカリキュラムの中に入れることと共に、外国人や、いろいろな文化を持った人たちをどう理解して、そして共に生きていくかということを考える、そういう内容を大学の教員養成課程の中に入れていくべきではないかと強く思っています。

 三つ目には母語を保障するシステムを何とか考えるべきではないかということです。私は今、学校で全部日本語で必要なことを教えているのですが、しかし母語を何とかできないだろうかと、そういうことを伝えていくことは大事なことじゃないかなと思っています。

 それから、大学の先生方に向けてですけれども、簡単に言うと、役に立つ研究をしていただけないかなということです。私が今非常に必要だなと感じているのは、日本語教育と教科教育とをどのように結びつけるかという研究です。それから、子どもたちをどう受け入れていくかということについてです。いろんな文化を持って入ってくる子どもたちの受け入れのあり方を研究のほうからもぜひアプローチしていただければと思います。

 最後に在籍学級の方々に向けてですが、1つだけ実践例をご紹介したいと思います。ジンバブエから来た子がいるクラスで、担任の先生が「ジンバブエを調べよう」という授業をやってくださったんです。この子は日本に来たときに勉強の面でとても問題があったんですけれども、クラス担任の配慮によって非常に伸びてきまして、いまではようやく3年生の勉強に追いついてきたということがあります。

6 星野命(1994)「帰国子女の行動特性・言語意識」日本語学13-3 明治書院pp.5460

一 帰国子女の実態と多様性

 「帰国子女」を「海外に在留した三歳から十九歳までの幼児・児童・生徒男女のうち、過去三年以内に帰国した小学生・中学生・高校生など国内の学校に就学している者」と定義する。帰国子女の数は1988年度には11,445人であったが、現在では13,000人近く達しているであろう。在留国・在留地域は50カ国以上、10地域以上にのぼり、滞在年数も数年から十数年までと様々である。さらに、海外在留中に進学した学校の校種も、いわゆる「現地校」や「国際校」、「日本人学校」や、「補習授業校」、「私立在外教育施設等」の区別ごとに、また学校ごとに、それぞれ異なった教育課程によって教育が行われている。

二 帰国子女の行動特性

松原・伊藤(1982)の調査では、「日本語に困るという体験があった時に、外国指向の強さ、同調性の弱さ、個人指向の強さが生じるということは、言語面の戸惑いが、帰国子女の心理に与える影響の強さが示されたもの」だと考察している。

江淵(1988)は、「帰国子女は国際感覚があり、自立的生活習慣を備え、忍耐力が富み、積極性・行動力・旺盛な好奇心が顕著だ」などの特性があると指摘している。

東京学芸付属大泉中学校では、社会科で生かせる帰国子女の特性として、「@在留国の歴史的、地理的、複眼的知識を持っている。A比較文化的視点がある。B問題意識や着眼点がユニーク。C表現方法が豊か。D教科書的知識を順を追って習得するというよりも、自分なりに何かを発見したり、イメージを創り出したりするという体験的、問題解決的な学習スタイルをとる生徒が多い。」ことなどを確認している(佐藤郡衛、1993)。

三 帰国子女の言語意識

 文部省調査(日本私学教育研究所、1974.山本雅代、1991の引用による)では、「帰国後困ったことがある」と答えた子供のうち、34.7%が「日本語について困ったことがある」といい、小学校低学年では、その割合が549%に達している。このうち「日本語で言いたいことがうまく言えない」という子供が全体で25.7%あり、「日本語がよくわからない」という子供が小学低学年で17.0%もおり、低学年の子供たちにとっては深刻な問題となっていると指摘している。

 帰国生徒にとっては「帰国後のカルチュア・ショックと自分の日本語力の不十分さが重なって、自分自身の異質性が増幅して感じられることがある」(稲垣、1990)。

7 松本典子・榛葉久美・直井和子(1994)「報告 アメリカン・スクールにおける
日本語教育とその模索」日本語教育83 日本語教育学会 pp.161171

目的:まず、高校生が日本語を学習する際の問題点と特性を挙げ、コミュニカティブ・アプローチをベースとした独   自のカリキュラム開発について、実践報告をする。

1.高校生の日本語学習における問題点、及び特性

 @モーティベーションにかけている、A外国語学習経験がない、B学習環境の影響を受けやすい、C言語の応用力が低い。以上は否定的な面であるが、優れている面としては、耳からの言語受容能力が高いという点、場面全体をとらえる能力の高さが挙げられる。

2.教材開発とクラス運営の工夫

 私達はアメリカン・スクール・イン・ジャパンの高等学校において、カリキュラム作成、及び授業実践を行ってきたが、ここで独自の教材を紹介したい。教材の三本柱として、第一番目はゴール設定がはっきりしていることである。つまり場面が特定されていて、その場面で学ぶべき機能や文法が明確に提示されているということである。第二番目はティーチング・テクニックが伝達表現能力を高める教材開発である。ゴール達成のためのティーチング・テクニックとして、教師は効果的だと思われる方法は、幅広く取り入れて、クラスに変化をもたらし、学習者が学びやすいように常に心掛けなくてはならない。第三の柱はスパイラル方式を採用していることである。前に学んだことを後の課で繰り返し、そしてさらに、次のレベルにも配置しておく配慮と工夫がもとめられる。

3.今後の課題について

 最後に、私達が今かかえている問題点や課題について、述べてみたい。

 その一つは、コミュニカティブ・アプローチをどのように取り入れていくかという点である。学習者中心で、ゴールや場面を設定してやりさえすれば、彼らから、習いたいことが主体的かつ創造的に出てきて、教師はその手助けをしてやればよいのだという考えは、少なくとも学習者が高校生の場合、あまりに理想的で現場の実情に即していない。

 二つ目のポイントは、学習者をどのように評価するかということである。評価のしかたによって、学習者の主体性の動機を刺激し、コミュニケーション能力を高めるのに役立てることが出来る。現在、私達は二段階の評価を行なっている。

 第一段階の評価は、コミュニケーションの中の要素ともいうべき、コンテクストや場面と切り離してもチェックできる、例えば語彙、文法、感じ、発音、表記法等といったものの評価である。第二段階の評価は、四技能が、コンテクストや場面やタスクと結びついてそれぞれ機能しているかどうかを評価するものである。しかしこれだけでは、最終ゴールがどれだけ達成できてきるかは評価できず、コミュニケーション行動全体を評価していくことが不可欠である。この最終段階の評価をどのように開発するかは、今後の課題である。


8 山ノ内裕子(1996)「在日日系ブラジル人児童の文化化構造−広島県F市におけ
る事例調査報告」九州教育学会研究紀要第24巻 九州教育学会 pp.237244

目的:本稿ではF市のM小学校の事例に基づいて日系ブラジル人児童の文化化の構造に関する考察を行うこととする

1.分析の枠組み

 考察する際に有効と思われる枠組みは江淵一公の「二元的文化化」と「バイカルチュレーション(biculturation)」である。データは19966FM小学校に在籍する12人のブラジル人児童の参与観察及び面接調査によるものである。

2.調査対象校および周辺地域の概況

 M小学校には、全校児童655名中、計12名のブラジル人児童が在籍している。1994年度から日本語指導のための加配教員がつき、日本語学級がスタートした。その翌年、母語保持指導の一環として、週1回のポルトガル語教室を発足させた。 

3.エスニック・コミュニティにおける文化化

【生活状況】:家族単位の来日が一般的である。主に木材加工業に従事している。
3年間滞在することを目標とするが、滞在が長期化することや帰国後再び来日する
ことも珍しくない。彼らの志向性は、来日目的によって「貯蓄型」・「生活エン
ジョイ型」・「日本永住型」・「祖国脱出型」の4つに大別される。


【両親の文化的帰属意識】:日系ブラジル人は、自身の帰属意識を「日系」
というエスニシティに重きを置く人と、「ブラジル」というナショナリティ
に重きを置く人とに二分される。また、妻が日系である場合、家庭内の文化
は「ブラジル文化」であり、夫が日系である場合、「日系文化」になる傾向
が強い。


【言語環境】:日本語能力と日系人としてのエスニシティはある程度比例し
ており、日系人としてのアイデンティティが強い親ほど日本語能力が高く、
逆にブラジル人としてのアイデンティティが強い親ほど日本語が苦手である
傾向が強いと言える。一方、非日系の親の場合も、滞日が長くなるにつれ、
挨拶程度は習得するが、職場において必ずしも日本語能力は必要とされない
し、ブラジル人だけ固まって行動するためそれ以上上達しない。滞日が長く
なるにつれ、子どもたちの間ではブラジル人同士でも日本語を用いる傾向が
ある。

 

4.学校における文化化―同和教育としてのブラジル人児童の受け入れ―

 M小学校の外国人児童教育の特徴は、「進路保障」と「アイデンティティの保持」の観点からブラジル人児童の受け入れを行っている点にある。しかし、F市教育委員会は外国人児童のための母語保持教育の必要性を認めていないため、教師達は、自力で市内の二つの公民館でポルトガル語教室の開設にこぎつけている。さらにM小学校の場合、日本語学級担当の教論がポルトガル語を身につけ、毎日ポルトガル語指導も行っている。彼は「ブラジル人の子どもたちに必要なのは、日本語指導ではなくむしろ母語指導である」と主張し、その結果、F市の外国人児童への教育の実践に大きな影響を与えてきた。

5.子どもたちの事例にみる文化化

【アリッサ マスダ:小6女児】:両親(父非日系、母日系二世)。彼女は一年掛
かって日本語は不自由しない程度までマスターしたが、原学級の授業には殆どつ
いていけない。ポルトガル語能力には関しては、ブラジルで4年生まで終えてい
るため、一通りポルトガル語の読み書きは可能であるが、日本語の干渉による誤
用が見られる。両親は貯蓄目的なので、子どもの学習に関しては二の次で、子ど
ものポルトガル語の勉強を見ようとはしない。


【カルロス ナカムラ:小5男児】:両親(父非日系、母日系)。来日5年目で
日本語の会話力はほとんど問題ないが、学習到達度は低い。ポルトガル語にお
いて、読み書き能力は小1レベルである。19967月、約1ヶ月間家族でブラジ
ルに一時帰国したが、その際あらためて自分がブラジル人であることを意識し
たそうだ。


【マサオ サトウ:小5男児】:両親(父日系二世、母非日系)。来日して4ヶ月目
であり、祖母(日系一世)から日本語を学んだというものの、担任や日本人児童と
意思疎通を図ることは依然として困難である。そのため同じクラスのカルロスが一
日中マサオの通訳をしている。しかしカルロスが7月に一時帰国した不在の期間は、
精神的に不安定な状態が続き、突然奇声をあげたり、怒り出したりと大変荒れてい
た。来日後半年が過ぎても依然として言葉の壁は厚く、クラスの中でも誤解を生む
ことが多い。


【マリオ タカシマ:小1男児】:両親(共に日系二世。)来日当時はポルトガル語
しか喋れなかったが、1ヶ月で日本語を喋り始め、周囲を驚かせた。両親は息子に
日本の教育を受けさせることにし、日本での永住を決意した。両親は日本語の会話
についてはまったく不自由せず、家庭の中では子どもにつられて日本語を使うこと
が多い。

6.考察

 M小学校の場合、ホスト社会がホスト文化の伝達ではなく彼らの母文化を伝達しようとしているという珍しい文化化の構造が見られる。M小学校では日本語学級がポルトガル語学習の場となっており、その結果、子どもたちの日本語や日本文化を習得する機会が限定され、日本の学校教育活動への十全な参加を困難にしているように見受けられる。

ブラジル人児童は今、日本の社会に「生きている存在」であり、日本社会でたくましく生きていく方法も学ばねばならない。そのために必要とされる能力は日本語能力であり、基本的学力である。また、ブラジル人児童を単に「被差別の立場にある子どもたち」と捉えるだけでは、子どもたちの相互間に真の異文化理解は生まれにくいであろう。

7.おわりに

 子どもたちの行動から、家庭において伝達される母文化(ブラジル/日系)と、学校において伝達される意図的・無意図的な学校文化(擬似的ブラジル/日本)相互に干渉を受け、「日本文化」と「日系文化」の違いや、「ブラジル文化」と「擬似的ブラジル文化」の違いを明確に区別することなく、むしろこれらを混同したまま受容している様子が観察された。


9 コガ、エウニセA.イシカワ(1998)「来日日系ブラジル人子弟の教育と
アイデンティティ−出稼ぎ現象の中の子どもたち」年報社会学論集第11
関東社会学会 pp.7182

1.はじめに −国際労働力移動のなかでみた子ども

 国際労働力移動において、子どもたちが置かれている現状に注目し、労働者の受け入れ側と送り出し側における子どもに対する教育の実態および両者の相互関係を明確にすることを目的とする。

 

2.日系ブラジル人のアイデンティティの変容

 日系ブラジル人における文化資本とは、ブラジルへの日本移民の子孫が、ブラジルの中で「日本人」として育てられ、身体化された「日本人」としての考え、行動性向を身につけ、これを資源としうる可能性を指す。その文化資本の特徴として挙げられるのは、ブラジルにおける日系人社会の中で日系人が「真面目」、「勤勉」、「正直」という美化されたイメージの「日本」文化を教えられ、それをシンボルとして突き上げられたアイデンティティや行動性向である(コガ、1996155)。

 しかし、日系ブラジル人が日本へ来ることにより、今まで自分達がアイデンティファイしていた「日本」・「日本人」と現実の日本及び日本人とが切り離されて存在するということを認識する。来日するまで抱いていたイメージが日本で出会った日本人により、「冷たい」、「差別する」、「粗野」というネガティブなものに変わっていく。

 日系ブラジル人子弟の場合は、成人の日系人と同じように「日系人」としての成人になるまでブラジル社会で育った日系2世・3世である親たちが「日系人」または「ブラジル人」としてアイデンティファイする対象とは異なる。つまり、日系人子弟の方が現在の日本の社会との接触がある反面、ブラジルの社会との間接的なつながりしかない現状が挙げられる。

 

3.来日している日系人子弟の実態

 本稿で取り上げる調査は直接面接の方法を取り、日本国内で行なった調査とブラジル国内で行なった調査の二つからなるが、日本での調査は静岡県浜松市及び愛知県豊橋市にて37名の日系人子弟を対象に直接面接を日本語及びポルトガル語で行なった(19974月)。ブラジル側での調査は、マットグロッソ州クイアバ市及びパラナ州ロンドリーナ市にて日本から帰国した日系人12名を対象に直接面接を主にポルトガル語で行なった(199710月)。

1)ブラジルの通信教育を受けている日系人子弟 
 ブラジルの通信教育を受けている子弟はブラジルの学校から送られてくる教材を
使用しポルトガル語で勉強している。

 来日した時の年齢により、彼らのポルトガル語の能力はまちまちであった。いわ
ゆる、文法的に正しいポルトガル語を話せない子が多い。

 一方、中学生以上の場合は言葉の問題はなく、本人が独学で毎月のノルマを果た
せるかどうかの個人的な問題になる。

 しかしながら、この日系人子弟は言葉がポルトガル語であって食生活がブラジル
食であっても、彼らの多くが持っているブラジルの知識は親たちの話で聞くブラジ
ルであり、中にはブラジルの記憶さえない子もいた。

2)日本の学校に通っている日系人子弟
 日本の学校のみに通う日系人子弟に共通するのは、日本語の流暢さ、そして
ポルトガル語の不自由さである。


 日系ブラジル人の殆どが都市部出身者であり、ブラジルでは教育にかなり熱心
であったにもかかわらず、日本における日系人子弟の教育に関しては問題点が多
いと言わざるを得ない。それは、親たちの日本語能力の低さと関係があるといえ
よう。

 日本の学校に通う日系人子弟は、話しことばとしての日本語は比較的早く身に
つけることができるにもかかわらず、学校での教科についていくことができる日
系人子弟の例はまだ稀であるということである(太田、1996130)。

 また日本の学校に通う日系人子弟は、ブラジルの通信教育のみを受けている子弟
と比較すると、第一に日本人の友達が多く、学校の外でも日本人の友達と遊ぶ傾向
が強いが、この子たちと親とのコミュニケーションや
習慣の違いから生じる問題も
出てくる。

4.日本から帰国した日系ブラジル人子弟の実態

 ブラジルの学校に編入するときには、子どもたちのポルトガル語の能力及び編入する学年に相当する学力が要求される。そのため、原則としてブラジルで受けていない教育の部分について試験を受けなければならない。

 また、ブラジルの教育では小学校一年生から落第制度がある。従って、外国から帰国した子どもが編入した学年についていけない問題が生じ、その学年を落第することがあっても、あくまでも本人の問題として扱われる。

 調査対象の帰国子弟の中では日本で小学校1年から勉強した子弟に問題が多く見られた。まずポルトガル語の能力が挙げられる。インタビューはポルトガル語で行なったが、彼らのポルトガル語には文法的な間違いや発音の問題があり、いわゆる日本語なまりのポルトガル語を話していた。

 一方、ブラジルで小学校12年生を勉強した後来日したケースでは、ブラジルの学校で問題があったとしても他の学生より成績が低いという程度であった。しかし、12年すると他の学生とは全く違いが見られない、またはそれ以上に成績がいいというケースも見られた。

 

5.日系人子弟のアイデンティティ

1)日本における日系人子弟のアイデンティティ
 日本における日系人子弟のアイデンティティ形成に見られる特徴は、
ブラジルの通信教育を受けている子弟と日本の学校に通う子弟の間で
顕著な差が見られる。前者は日本に住んでいても、ポルトガル語によ
る勉強やブラジル的な家庭環境にあることで、自分がブラジル人であ
ることに疑問を持つ子はいなかった。


一方、後者は日本の学校に通う子弟であるため、日本語をはじめ日本の
習慣を身につけており、中にはなぜ自分は「ブラジル人」であるかを理
解できない子もいる。特に日本の学校に通う12年生の小学生に、日本
人の子どもと同じような遊びをし、同じような食べ物の嗜好があり、ブ
ラジル人であるという意識が薄くなっていたといえる。しかし、小学校
3
4年生及び中学校に通う日系人子弟には日本の学校や日本人に対する
ネガティブな意見が多かった。

2)ブラジルに帰国した日系人子弟のアイデンティティ
  日本から帰国した日系人子弟は少なくとも帰国直後は、ポルトガル語
ができない、ましてや落第をする場合には、ブラジルにおいて日系人社
会及び日系人家族で受け継がれている日本のイメージ(「勤勉」)がく
ずれることもある。また、他の学生から見れば、日本から帰国した日系
人子弟がポルトガル語ができない、またはおかしい場合には成績が悪い
「日本人」になるのである。この特徴は、日本人移民がブラジルへ移住
した当時の状態と類似している。しかし、ポルトガル語やブラジルの習慣
等に関して他のブラジル人と比較して落第しているという理由等から日系
人同士の凝縮力を維持しているというより、自分たちの「日本人」として
プライドを維持している側面が強い。

 日系人子弟の場合、日系人としてのアイデンティティとは、日本の文化及
びブラジル社会で置かれている文化的側面より、出稼ぎ者として日本へ来る
ことができる一つの特権として捉えている傾向が強くなっているといえる。
つまり、日系人であることは日本で働けるという意味になっている。

6.おわりに

 日本の教育システムにしろ、ブラジルの教育システムにしろ、日系人子弟が抱える問題は両方のシステムに十分適応していないことである。いわゆる、親と共にブラジルと日本を行き来している間、日本とブラジルの教育が両方とも中途半端になる可能性が高くなる。また、日系人子弟が自らを出稼ぎ者として意識するようになることも彼らを教育の現場から遠ざける原因である。

 多くの日系人子弟は実際のブラジルを知らないので、ブラジル人としてのアイデンティティはきわめて抽象的にシンボライズされたものに過ぎない。日本とブラジルを行き来している日系人子弟は、ポルトガル語の能力が低いことや、ブラジルの習慣を身につけていないという欠点を感じ、ブラジル社会では親より「日本人」としてのアイデンティティが強くなる傾向が見られるのである。

10 山本清隆(2003)「外国人児童生徒の日本語指導を阻害する要因について」
日本語教育117 日本語教育学会 pp.7382

1.はじめに

 外国人児童生徒の日本語指導を阻害している要因となっている制度上の問題点と言語学習上の問題点について各種の調査資料を基に論究していく。

2.制度上の問題点

 日本語指導を受けている外国人児童生徒が在籍している学校数と全在籍学校に対する割合は小学校で2,407校(75.3%)、中学校で1,299校(75.6%)である。この数値を見る限り、2割前後が指導を受けられない状況にあることが判る。その理由としては、外国人児童生徒の在籍人数の問題と在籍年数の問題が挙げられる。

 通常、ある一定数を超える外国人児童生徒が在籍すれば、日本語指導教員が加配されることになっているが、1校あるいは1地域あたりの在籍者数が少なく、しかも滞日期間が短かければ教育機関としては日本語指導教員を加配する等の有効な措置を取りづらい。したがって、日本語の指導が必要であると判断されながら、実際には指導が行なわれない外国人児童生徒が存在するという状況が生まれているわけである。

3.言語学習上の問題点

 ここでは長野県上田市の小学校を観察対象校とし、外国人児童生徒の会話と作文において観察された誤用例に基づき、母語干渉を中心に日本語学習の問題点について考察する。

31 母語干渉による誤用

311 音声上の誤用
       スペイン語の母音は日本語と同じ5母音体系であるため、主に子音の
     発音が誤用として見られる。<(1)ヨ/ジョ、(2)シ/チ>

312 文法上の誤用

1)語順:母語干渉の代表的なものとして、語順の問題(文型、連体修飾)がある。
2)否定疑問文

32 言語形態の違いによる誤用

321 文法上の誤用

1)格助詞:特定の格助詞の過剰使用及び格助詞の脱落による誤りが見られる。
2)形容詞:「だ」を接続させており、過去形の場合、終止形として接続させて表現する。

322 表記上の誤用

 児童生徒にとって発音より表記の方の誤用が作文において多数観察される。

4.まとめと今後の課題

 今後の課題としては@現場の教師に対する研修A教員養成学部の学生に対する教育B指導法と教材の確立などが挙げられる。特にBが重要であり、基礎研究として本稿で取り上げた事例調査は不可欠である。


11 萩野祥子(2004)「年少者の日本語イマージョン教室での自発的発話
−機能的側面の調査−」日本語教育122 日本語教育学会 pp.7281

1.はじめに

 メルボルンの小学校の日本語イマージョンプログラムで行なった低学年生徒の発話調査のデータを基に、言語構造を習得する前の彼らが教室でどのように、どんな目的で日本語を使用しているのか、自発的発話を取り上げその機能を分析する。

2.先行研究 (略)

3.調査方法

3-1 プログラムと調査の対象
 調査を行ったメルボルンの州立小学校では、週に7.5時間分(30%)の授業が日本語で、
残りの17.5時間分(70%)が英語で行なわれている。調査の対象はプレップ12名と1年生
8
名、2年生4名、58才までの合計24名の生徒(女子が11名、男子が13名)と、彼らの
授業を担当していた日本人教師及びアシスタント1名ずつである。子供達の家庭の文化的
背景は多様であるが、一人を除き、英語は彼らの母語である。

3-2 データ収集方法
 2001年の3月と5月、新学年が始まってから5週目と12週目に収集した日本語と科学の
クラスのデータを用い、縦断的、横断的検証を行なう。データはビデオ録画とオーディ
オ録音、観察ノートによる。

3-3 分析方法
 生徒の自発的発話を全て取り出し、McShane1980)の分析方法である一般的機能分類
と特定機能分類の2つの枠に従って分類し、量的質的分析を行なった。

4.分析の結果

 発話の割合が高かった「対話」と「行動喚起」を中心に、発話の特徴を述べる。

対話:どのクラスでも最も大きい割合を示した項目が、「対話」である。日本語クラスでは特に、第5週に72.4%、第12週に66.4%と、いずれも圧倒的に高い割合を占めている。さらに、対話の下位分類においても、「模倣」が発話全体の中でも最も高い割合を示し、この時期の生徒に最もよく使われる言語行動の一つであると言える。しかし、12週目の日本語クラスでは「挨拶」「応答」の発話数の割合が増え、「質問」「付加」も現れると共に、「模倣」の割合が「対話」の中で半減し、全体に対しても32.7%と約半分の割合に減少する。

行動喚起:「行動喚起」はプレップの科学以外では「会話」に次いで2番目に大きい割合(18.4%)を占め、特に12年の科学のクラスでは、37%もの大きい値を示した。このカテゴリーの中で最もよく現われた機能は「注意」である。生徒達は教師の注意を引くために、「(名前)先生」という言葉をよく使った。この発話は、始めの注意喚起だけに留まらず、実は様々な意図を含んでいることが多かった。

16 関口明子(1994)「日本定住児童の日本語教育−インドシナ難民児童の多様な言語背景
と日本語教育」日本語教育83 日本語教育学会 pp.115

目的:大和定住促進センターにおけるインドシナ難民子弟に対する日本語教育の研究の成果として、現在どのような教育を行なっているかを報告する。

大和定住促進センターで学習した児童の数は299人になるが、入所する経路は二種類ある。一つは日本の国外にいろいろな形で滞在している難民の中で日本定住を希望し、日本側から派遣された調査団との面接その他の調査で日本へ難民として入国を許可された人たちである。もう一つは母国をボートで脱出して来日した、ボートピープルと言われる人達が日本に数年定住し、祖国に残してきた家族を呼び寄せるということである。

大和定住促進センターの児童クラスで学習するインドシナ難民子弟は、主として6歳から12歳までの言語における臨界期内にある。また彼らは多様な言語背景を持ち、大半は体系的な識字教育の経験をもたない。センターでの日本語教育は彼らにとって初めて経験する体系的言語学習であり、定住後の学校教育に引き継がれる言語学習の第一歩であると考えられる。

センターでは生徒自身の学習意欲を引き出すことを最大の目標とし、終了後、日本の公立小中学校に入って、日本人児童生徒と共に学校生活を送ることになるということを考え、「@日本に定住していくための基本的な生活日本語を身につけさせる。A日本の学校生活への適応、学校生活に最低限必要な日本語を習得させる。」のような学習目標をたてた。

学習時間は16時間で、クラス編成は6歳から12歳までの学齢児を対象としている。中学生クラスは13歳から15歳までの子弟が2,3名以上になれば開講している。

教育内容としては実験的学習と教室学習がある。実験的学習として日本語の音に慣れさせる目的で、TPRを取り入れた独自の方法で行なっている。また、集団生活や定住生活への適応とそれに必要な日本語を指導するため、授業の一環として教師が共に行動し、指導する。教室学習としては発音指導、文型・表現指導、文字指導がある。発音指導はわらべうたや童謡を取り上げて行なっている。文型・表現指導の導入は実体験か疑似体験による。そして種々のゲームで、定着を図る。文字指導は初日から開始するが、まず予備導入、歌、文型表現指導で「聞く」「反応・動作」「話す」を先行させ、運用目標をクリアさせる。その後先行した内容を文字の「読む」で追いかけ「書く」で抑える方法を取っている。

定住後彼らが来日前に持っていた言語を越えて、日本語が第一言語として確立していくケースが多いことを見ても臨界期内の子供の体系的言語教育がいかに重要であるかがわかる。